計算科学・データ科学を活用した電気電子材料の創成:佐藤正寛

脱炭素社会の具現化をめざして

高電界現象解析やポリマー物性予測にこれまでの「実験(経験)科学」「理論科学」に加え、第三・第四の科学である「計算科学」「データ科学」を適用できる時代が来たように思います。自然法則と人工知能を協奏させ、材料律速な世界において脱炭素社会を具現化しませんか?研究室は、熊田亜紀子教授、藤井隆特任教授と共同で運営しています。


第一原理計算を用いたアモルファス高分子材料中の電荷輸送現象の解明

誘電・絶縁、半導体材料には高分子材料が広く用いられる。高分子材料は材料の分子構造の複雑さ・巨大さに純度制御の難しさといった問題が加わり、物性論的な理解が一朝一夕には進まず、高速な材料開発が困難となっている。そこで、本研究では第一原理計算を基本としたマルチスケールなモデリングを通して、その場しのぎのパラメータや現象論的・経験的な表式を用いずに、高分子材料中のマクロな電荷輸送特性を予測する計算手法を開発してきた。これまでに、ポリマー絶縁材料について、電荷移動特性とそのモルフォロジー(高分子鎖の形態)の関係を明らかにすることに成功した。さらには添加剤や高分子鎖の変性の効果も明らかになってきており、実用材料開発指針が得られるようになりつつある。最終的には高分子鎖の分子原子レベルの設計によってそのメソ・マクロスケールの構造を制御し、電荷輸送・蓄積特性を自在に制御することを目指している。

第一原理計算を用いたアモルファス材料界面における物理現象の解明

界面、すなわち異種材料が接触する領域は、接触する材料のバルクにおける性質からは想像もできないような特異な特性を示すことが多く、半導体デバイス・化学触媒・生体機能などにおいて積極的に利用されてきた。界面はしばしばデバイスや機器の特性を支配する。しかしながら、工学的に有用な界面は、(しばしばアモルファス材料間、あるいはバルクでは見られないような歪みや構造再配向を伴った、)いわば「雑然とした」構造を有するため、その理解やキャラクタリゼーションが十分でない。そこで、本研究では実験とシミュレーションを協調させることで界面電子・幾何構造、ひいてはその機能を、分子原子レベルから調べてきた。これまでに金属/誘電体、誘電体/誘電体、半導体/電解液界面といったアモルファス材料界面の構造や界面における電荷移動特性を明らかにしてきた。

基礎物理に立脚したAIモデルを用いた材料物性の帰納的推定

我々は材料律速な世界に生きている。材料物性や機能は第一原理的に予測できることもあるが、構造や現象が複雑な場合は第一原理的な解析は極めて困難である。このような場合には実験・理論・計算科学に加え、データ科学を協調させた、いわゆるマテリアルズ・インフォマティクスによるアプローチが有効である。これまでに第一原理計算と機械学習法を併用することで気体の絶縁破壊電界や沸点予測に成功し、現在は同手法を用いてSF6代替ガスの探索を行っている。加えて、第一原理計算を基本としたマルチスケールモデリングによって得られた(分子原子レベルのミクロなパラメータとマクロな物性の関係に関する)知見を生かしてポリマーの各種物性を予測している。特に、電気・機械・熱・光学物性といった複数の特性を同時に制御した、実用的な材料設計に力点をおいて研究を行っている。

電気の回廊