高電圧大電流工学、電気機器絶縁、放電プラズマ工学:熊田亜紀子

次世代電力システムの構築を目指して

ゼロ・カーボン社会構築が求められる中、電力システムは大きく様変わりしています。従来の交流グリッドの高度化に加え、直流グリッドの基盤技術の開発が急務となっています。社会インフラ構築に直結した“出口”を見据えた上で、物性物理や放電物理を理解し、さらに新しいセンサを開発し、放電現象や電流遮断現象、そして固体中の電気伝導現象を解明していっています。研究室は、藤井隆特任教授、佐藤正寛講師と共同で運営しています。


真空遮断技術の高度化

電力システムにおいて“電気を確実に切る技術”、すなわち開閉技術は重要な基盤技術です。
電力輸送技術の環境調和性向上には、真空遮断器の電圧階級の引き上げや小型低廉な直流遮断器を実現することが必要で、そのためには真空遮断器中で生じる絶縁破壊現象やアーク放電現象の基礎物理の把握が重要な課題でとなっています。真空遮断器中で生じる絶縁破壊現象やアーク放電現象の物理解明を目的として、微小粒子に起因する絶縁破壊の発生機構や沿面耐圧の向上、直流遮断下における真空アーク放電の特性(プラズマ温度、電子密度、中性粒子密度の測定)を通じて検討しています。

絶縁材料中のトリー現象と可視化

電気トリーとは、固体材料中にできる微小な空孔であり、有機絶縁材料の内部または導体との界面にボイドやクラックなどの空隙が存在すると部分放電が生じ、トリーが発生、それが絶縁物中を進展していき最終的に全路破壊へ至ることが知られています。
近年、エポキシ樹脂に充填するフィラーをナノコンポジット化することで、トリー発生・進展が抑制されることが知られています。光学顕微鏡やX線位相イメージング技法を用いることで、従来のマイクロサイズのフィラーや、近年のナノサイズのフィラーを充填したエポキシ樹脂中のトリーの進展現象の特性を測定し、ナノコンポジットによるトリー進展抑制機構を探っています。
また、AC/DC変換装置の要であるパワーモジュールには、その封止材としてエポキシ樹脂の他にシリコーンゲルが用いられています。印加電圧波形を、パワーモジュールの動作時と同様の絶縁にとっては過酷な繰り返しサージが重畳したPWM波形として、電気トリー進展現象特性を測定し、パワーモジュールの動作電圧の高圧化・動作周波数の高速化に向けた絶縁耐力向上方法を提言しています。

電気光学センサの開発

放電を伴った場や、非線形材料を含んだ場においては、電界を測定したいというニーズが強くあります。電界計測手法にはいろいろな手法がありますが、電気光学効果(ポッケルス効果、カー効果)を利用したセンサは、その測定可能帯域の広さ、電磁無誘導性、絶縁物だけでセンサが構成できることといった利点を生かして、高電圧・放電現象の測定には大変相性のいいセンサです。本研究室においては長年にわたり、電気光学センサの開発を行ってきており、高電圧化、高感度化、表面電位計としての応用、波長の長い/短い電磁波の利用と、その高度化・適用範囲の拡大を行っています。

電気の回廊