高性能計算(スパコン、大規模シミュレーション、計算科学、演算加速器):下川辺隆史

スパコンによる大規模な物理シミュレーション

最先端のスパコンでは、低消費電力かつ高性能を達成するため数千台を超えたGPU (Graphics Processing Units) などの演算加速器が搭載され、日本、米国、中国などで稼働しています。GPUは元々は画像処理用のプロセッサでしたが、従来のプロセッサであるCPUと比べ消費電力当たりの演算性能が高いため、最新スパコンに大規模に搭載されています。格子計算はスパコンを利用する代表的なアプリケーションで、私たちのグループでは、気象計算、都市気流計算、金属材料の凝固成長計算など格子に基づく様々なアプリケーションをGPUを搭載したスパコンで高性能に実行する研究に取り組んでいます。GPUスパコンや最先端のプロセッサを搭載したスパコンで効率的に実行するためには、複雑な最適化手法を導入する必要があり、これらの研究開発を進めています。

高精細計算を実現する適合細分化格子法と高生産フレームワーク

格子に基づいたシミュレーションでは、広大な計算領域の場所によって求められる精度が異なる問題に有効な手法が要求されてきています。GPU 計算では、GPUが得意なステンシル計算を活用しながら、高精度が必要な領域を局所的に高精細にできる適合細分化格子(AMR)法が有効です。私たちのグループでは、これまでに開発を行ったステンシル計算フレームワークを基盤に、複数GPUに対応したAMR 法フレー ムワークを構築を進めています。これを用いた高精細な圧縮性流体計算や物体周りの流れのシミュレーション技術の開発に取り組んでいます。

機械学習による流体計算の高速な予測

数値流体力学は、高性能計算分野で重要なアプリケーションの1つで、高い計算精度を得るために、細かい計算格子で細かい時間ステップを用いる必要があり、スパコンによる大規模計算が不可欠です。このため、数値流体シミュレーションを高速化する様々な取り組みがなされています。近年、画像認識分野では、深層学習を用いた研究が活発に行われています。深層学習は、機械学習手法の一つで、入力層と出力層の間に複数の層をもつディープニューラルネットワークで学習を行います。我々のグループでは、深層学習を用いて、数値流体シミュレーションの結果を高速に予測する研究に取り組んでいます。従来の数値計算手法の領域分割法のテクニックと深層学習の推論を併用した大規模な定常流計算結果の予測手法や複数の時間ステップの計算履歴からそれに続く流体シミュレーション結果を予測する手法を開発しています。

天文観測データ処理へのGPU計算の応用

GPUによる低消費電力で高速な計算の応用として、GPUを観測天文学で利用する学際的研究を進めています。私たちのグループでは、GPUによる望遠鏡撮像画像の高速処理技術の開発、未同定天体の検出手法の開発に協力しています。また、この研究の一環として、これまでに、小型人工衛星上で天体の位置から視野方向を決定するスタートラッカの開発に協力しました。開発したスタートラッカーは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証プログラムの初の実証機会となる革新的衛星技術実証1号機の小型実証衛星1号機(RAPIS-1)に搭載され、2019年1月18日に打ち上げられました。今後は、紫外線広視野サーベイによる時間領域天文学の研究のため、東京工業大学を中心とした超小型人工衛星「うみつばめ」プロジェクトに参画し、学術分野に向けたデータ配信などについても協力していく予定です。

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