バイオフォトニクス:小関泰之

研究の概要

我々は最新の光パルス技術・光量子技術を駆使して生体組織を可視化したり生体分子の働きを解明する研究を進めています。具体的には、光と分子の相互作用のひとつである誘導ラマン散乱(SRS)という現象を用いて、生体分子を検出する技術であるSRS顕微法(右図)を開発し、今もその性能向上と生体イメージング応用を進めています。研究内容は、計測原理・レーザ光源・制御系・光学系・データ解析法など、多岐にわたります。普段は地道な実験の積み重ねですが、レーザが発振したり、生体の像が見える瞬間は、とても楽しいものです。電子工学を武器として、物理学・化学・生物学・医学の境界領域を開拓しましょう!

SRS分光顕微鏡システム

SRS顕微法では、ある特定周波数における分子振動を検出します。その周波数は、2色のレーザの光周波数の差で決定されます。このため、従来のSRS顕微鏡では、複数種類の生体分子を見分けることは困難でした。我々は、高速波長切り替え可能なレーザ光源[1]を開発し、様々な分子振動周波数におけるSRS像を数秒~数十秒で取得することで、複数種の生体分子をマルチカラーでイメージング可能なSRS分光顕微鏡を実現しました[2]。
[1] Y. Ozeki et al., Opt. Lett. 37, 431 (2012).
[2] Y. Ozeki et al., Nature Photon. 6, 845 (2012).

大規模細胞イメージング

我々は、多数の細胞のSRS計測を実現するために、超高速波長切替光源を開発し、高速流体中の細胞の多色SRSイメージングを実証しました[1]。本技術によって、 10,000個以上の細胞ひとつひとつに含まれる生体分子の画像化を実現し、微細藻類に含まれる栄養分のイメージング計測を行ったり、血液細胞やがん細胞の無標識計測を行うことなどが可能となりました。
[1] Y. Suzuki et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 116, 15842 (2019).

量子光学による超高感度化

我々は、SRS顕微法を超高感度化するために、量子光学の導入を進めています。現在のSRS顕微法の信号対雑音比は光の量子的な揺らぎ(真空場揺らぎ)で制限されています。この揺らぎを低減するため、スクイーズド光と呼ばれる量子力学的な光をSRS顕微鏡に導入することで、SRS信号の信号対雑音比を高めることを目指しています[1]。
[1] Y. Ozeki et al., J. Opt. Soc. Am. B 37, 3288 (2020).”

電気の回廊